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Wakalog 手前味噌ひと文字  (自選和歌集)
平成 十七 半期
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平成十七年大晦日の歌

軽々とした命なり藁屑の川面に浮くに休む鶺鴒
藁屑を筏のごとく休める鶺鴒をみて

平成十七年師走二十四日の歌

先駆けて聖夜を祝ふ悦びに濁りをささず西へ渡さむ
聖夜を迎ふるにあたりて

平成十七年師走九日の歌

はかなくも 「我」 と呼ぶべきドメインを越えて一羽の鵜は飛び去りぬ
インターネット不通に苦しむ我が上を飛ぶ鵜に

平成十七年師走七日の歌

改札の結界越しに雪の舞ふ異界の様を見る上野駅
上野駅の広小路口より改札の彼方にみちのくをみて

平成十七年師走五日の歌

当代にふと先代の影を見て我今にある芝居見物
勘三郎の 「松浦の太鼓」 を観て

平成十七年師走四日の歌

山茶花の散る花びらを薄紅の帯の如くに止め置く雨
冷たき雨の降る夕暮れに

平成十七年霜月二十九日の歌

青空を吹き始めたる北風にキーボード打つ指は気付きぬ
木枯らしの吹き始めたる午後に

平成十七年霜月二十八日の歌

地に落ちし葉も枝々に残る葉もひたに染まりて秋を見送る
銀杏の葉の黄に染まりたる朝に

平成十七年霜月二十五日の歌

クリスマスツリーの示す天上に愛ある如く我にもあるか
クリスマスを一月後に控え

平成十七年霜月十五日の歌

対岸の欅の枝も数へらる清かなる日を風も寿ぐ
紀宮様ご成婚の日に

平成十七年霜月六日の歌

寄り添ひて寝る牛たちも雨音に黒目がちなる目を覚ますらむ
夜に大雨との予報の夕暮れに

平成十七年霜月一日の歌

マンションの南西面と赤松を同じき色に染むる落日
夕暮れの郊外の光景を見て

平成十七年神無月二十八日に詠める歌

霧の朝遠くのことは無きことと足許のみを見つめ歩きぬ
ただ歩くことのみに意味ある霧深き朝に

平成十七年神無月二十三日に詠める歌

岩絵の具塗りたる如き紅の空に確たる富士の影立つ
夕暮れの空に小さくも確たる富士のシルエット見えて

平成十七年神無月十七日に詠める歌

シャツ生地を貫く雨は点々と深まる秋を肌に刻みぬ
秋深まりて冷たき雨の肌に浸み通る夕べに

平成十七年神無月十六日に詠める歌

無としたき心は既に無きものをただかりそめに花香りをり
「宇宙」 (コスモス) といふ名の花の咲き乱れるを見て

平成十七年神無月四日に詠める歌

小糠雨降りては止むを繰り返す鷺立てる瀬の長き夕暮れ
水量の減り行く小貝川の瀬に鷺の群れ立つを見て

平成十七年神無月一日に詠める歌

日暮れてはその白き色見る者もなき闇になほ木槿咲きをり
秋の日暮れてよりもなほ咲き続くる木槿に

平成十七年長月二十五日に詠める歌

魚の跳ぶ音せし川に流星の残像のごと波紋を眺む
小川の土手を散歩して

平成十七年長月二十四日に詠める歌

白鷺の舞ひ来て遊ぶ刈田にも巷と同じき雨のそぼ降る
秋雨のそぼふる刈田に鷺の遊ぶを眺めて

平成十七年長月十四日に詠める歌

蜘蛛の巣の無数の羽虫食らわれもせず干からびて行くを待つなり
一夜にして庭に張られし大きなる蜘蛛の巣を見て

平成十七年長月五日に詠める歌

雨の日の猫はふとしたはずみにて家内の未知の場所に踏み入る
猫の家内を散策するを眺めて

平成十七年長月四日に詠める歌

朝毎に同じき竿に停まりをる秋津の羽根の筋え見分けず
毎朝玄関先の竿に止まる蜻蛉をあわれみて

平成十七年長月二日に詠める歌

あの雲の中に鳥海山は立つそは見えぬとも在るありがたさ
新井田川より鳥海山を隠す雲を眺めて

平成十七年葉月二十七日に詠める歌

夏は行く高く伸びたる松の枝に潜む秋色一瞥もせず
晩夏の景色を眺めて

平成十七年葉月十九日に詠める歌

動きなき白き晩夏の一日をとこしへとして鳴き暮らす蝉
蝉時雨の中に永遠を感じて

平成十七年葉月十八日に詠める歌

鬱蒼とした木の中で鳴き尽くしぽとり落ち来て死ぬる蝉かな
足許に不意に落ち来たる蝉を見て

平成十七年葉月十日に詠める歌

急行という名の列車今はなく在来線のホームは涼し
真夏の昼の上野駅の静かなるプラットフォームにて

平成十七年文月十九日に詠める歌

かぎろへるレールを歩く遠き日の己が姿を幻視する夏
プラットフォームの端より陽炎の立つレールを望みて

平成十七年文月十日に詠める歌

夕凪のもの皆止まるその中で糸引く如く雲雀降り来る
夕暮れの中を雲雀降り来るに出会ひて

平成十七年文月六日に詠める歌

散歩道脚下の罅 (ひび) の奥底に別世界あり虫はそを知る
アスファルトのひびの奥より這い出る虫を見て

平成十七年文月五日に詠める歌

つばくろは鳥の形の遠来の神の如くに傍らにあり
コーヒーショップの看板文字に巣を作る燕を見て

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