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　 平成二十二年 葉月 （八月） の歌　
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1日   七月の暮れゆく空ににいにいと油蝉との声渡り行く
2日   一夏のうちの十日を限りとし鳴き尽くさむとひたに鳴く蝉
3日 ☆ 軒下にぶら下がり涼むかまきりの背後にはただ青き夏空
4日 ☆ 夏の日の暮るる時こそ一人なれ痩せたる高校生の影遠ざかる
5日 ☆ 路地裏に残る火照りよ遠き日よ何もかも皆西へと沈め
6日   六十五年前突如として広島に湧きたる雲の黒さを思ふ
7日 ☆ 風渡る堰の水面の片隅に秋生まるれど留まるを知らず
8日 ☆ 子は眠り猫も鳴かざる蒼天に様々の蝉ひたすらに鳴く
9日   盆近しバイオレットの朝焼けを貫く思ひ故郷に飛ぶ
10日   天気とは晴れては曇り降るものと今日の空にて改めて知る
11日 ☆ わだつみに沈む日影の照る里に眠れる思ひ我が内にあり
12日 ☆ 能登の海渡る野分の先触れの雲に隠るる鳥海の峰
13日   喉鳴らし膝に擦り寄る盆の猫森羅万象我がものとして
14日   盂蘭盆の見えぬ夕日の傾けば世界を浸す蒼き夕暮れ
15日   盂蘭盆の日に焼かれたる葦簀越しにつくつくほふしの声ぞ聞こゆる
16日☆ 様々の蝉の声して様々の遺風を伝へ寺に風吹く
17日☆ 窓の外に京の都の暑き日を眺めてすする麦茶冷たし
18日☆ 高き日の京に落とせる影もまた果てなき時の彼方の白さ
19日  その昔我は都の端にゐて盗賊をすることのありしか
20日  上野山さしもの夏も揺らぎゐて宵の風にぞ人は吹かるる
21日  たつぷりと湿る世界を雲間より朧に照らす十二夜の月
22日  古時計生き返り刻む七時半は何時の年の七時半かは知らず
23日  夏空よりぽとり落ち来て死ぬる蝉の如く切なく人を恋ふ君
24日☆ 湾岸に湧く雲もなし旅客機の光る白さよ行かざる夏よ
25日  熱帯夜の縁より湧ける伏流水の如き涼風を待ちゐたるなり
26日☆ ひむがしの空の低きに出でし月を何処の人ぞ立ちて待ちたる
27日  空よりもやや緑がかる常磐線に今日は二人が巻き込まれしとぞ
28日  先週も今週もまた来週もひたすら暑き日の続くてふ
29日  暑き日を浴び浴びてその実の内に結び尽くして堅き南瓜よ
30日☆ この夏の稲穂の重く垂るるなり野分の風も知らざるままに
31日☆ 北に逃ぐる人はそれぞれのローカル線に吸ひ込まれ人の顔取り戻す
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