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　 平成二十二年 水無月 （六月） の歌　
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1日 ☆ 田の面に厚き緑の広がれど青空映す隙間残れり
2日 ☆ わだつみの彼方に夏はひつそりと待ちゐるといふ乾きたる宵
3日 ☆ 空と水は我が心なるありたけをまるごと映しかく青きなり
4日   「バザール」 といふ名の昭和東京のビルの隙間を吹き抜けてゆく
5日 ☆ 西空の雲居の隙に夕焼けの色透けて見ゆ今日も暮れゆく
6日 ☆ 初夏の風吹き入る部屋に白日夢も見ずにまどろむ幸はつかの間
7日 ☆ 夢のごとき時の流れの宵の口椋鳥の声に夏は来たりぬ
8日 ☆ 少年が恋てふものを知り初むる額の花咲く六月の頃
9日   iPad が業界を変えるかもしれませんねと真顔で語るウェブの人らは
10日   この夏は如何なる夏になるらむと土手の薄紅葵を眺む
11日   iPhone の壁紙を額の花に変へ梅雨入りを待つ頃となりたり
12日☆ 土手に咲く薄紅葵の花びらの赤き筋目に夏の日は照る
13日☆ バニラ色のアイスクリームの解くるまでゆつたりと舐める如くに食さむ
14日  梅雨といふ空気の中にすつぽりと飛び込みたりき板東の我らも
15日☆ 五月晴れに途切れ途切れの思ひこそ刻みて仰げああ妙義山
16日☆ 眩暈とは梅雨に入りたる二日後の快晴の空を見上ぐる思ひ
17日  炎天のガソリンスタンドの旗振りの絶望の淵を我は行き過ぐ
18日☆ 閉ざされしシャッターにグラフィティ、ステップに空き瓶ありて野良猫も見ず
19日☆ 日に光る紫陽花の色サッカーに潜む複雑系の色なり
20日☆ 緑濃く田を覆ふ朝その影にあまたのいのち息を潜めり
21日☆ 閉ざさるる思ひの醸し出だされて熱く弾くる時を待つ頃
22日☆ 音もなく黄昏の中に舞ひ来てはふと止まるなり夏の爪先
23日☆ 紫陽花の彼方にビニール傘は去る濡るれど光ることなき路面
24日☆ 極端と言はるる雲の移ろひの埋もれ木の下に夏は深まる
25日☆ 揺るる弧を描くボールと宙を舞ふキーパーの影は交錯せざりき
26日  夏日射す時は如何ほど耐えゐしか雨の夜に咲き誇る紫陽花
27日☆ 雲間より漏れくる日差し目の奥に届きて今日は脳に届かず
28日☆ 街頭に選挙の声の溢れゐてその声を消す雨は降るなり
29日  ずつしりとして軽やかに自らを引き裂くこともなく行く川よ
30日☆ 白百合に少しく差せる薄紅の夢醒むるとも色は褪せじと
　　　
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