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　 平成二十三年 弥生 （三月） の歌　
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1日 ☆ 久方の虚空を飛び交ひゐるらしき電波捉ふる小さき箱よ
2日 ☆ 広がれる雲居の端をちぎるまで吹く風の末に春はあるらむ
3日 ☆ 梅の蕾弾けぬうちは朝毎に春はまだかとつぶやきゐるらむ
4日 ☆ 天と地の重なる彼方望めども引き寄すること叶はざるなり
5日 ☆ 黄昏の空の彼方の何処よりフットライトの微かにぞ射す
6日   なくもがなのものが邪魔者となり果ててグラフィティの中に埋もれゐるなり
7日 ☆ さざ波も立たぬ小川の岸に生ふる篠竹に積む春の淡雪
8日 ☆ 次々に蕾弾くる紅梅を揺らす風こそ春の風なり
9日   夜半となり白きマスクの一日の役目終はれど痒き目の縁
10日 ☆ 何本もの太き電線の影揺れて様々のもの春に飛び交ふ
11日 ☆ 巨大なる力の前の蟻のごとき我にしあれど祈りこそあれ
12日 ☆ ありがたき世界の祈り日の本の心砕かるることなかれとぞ
13日 ☆ 日の本の人よ咲 （わら） へと言ふ如く遅咲きの梅今咲きにけり
14日 ☆ 久々に充電ラジオのハンドルを回せば音の頼もしきかな
15日 ☆ 頂を真白に染めて日の本よいざ輝けとこそ歌へ富士の嶺
16日 ☆ 地は揺れど天は動かず心にて聞く人々の祈りのみあり
17日   川面には濃き陰影の波立ちて彼岸の前の木枯らしぞ吹く
18日 ☆ 吹く風も慈悲にやあらむ炉を冷やし空青くして梅は咲きゐる
19日 ☆ 大いなる今宵の月はあのなゐを呼びたりとても澄み渡る月
20日 ☆ 揺るるたび臆病猫の擦り寄るを慰むる我が癒されてゐる
21日   猫さえも餌と水には困らぬになほ飢うる人あまたあるとは
22日 ☆ 避難所に無事なる友の名前ありわが庭の梅満開の今日
23日 ☆ 地は揺れど彼岸忘れぬ蕗の薹慎ましやかに春を告げ来ぬ
24日   ふと見ればいぬふぐりこそこの春も目立つことなく咲きてあるなれ
25日 ☆ 揺るる地を覆へる雲の広がりてこの年の春の遅き歩みよ
26日   北風の吹き渡る野を行く川のさざ波よいつ花の咲くらむ
27日   黄昏るる北を望めば日光の山影浮かぶ紫の空
28日 ☆ いつになくほの暗き街の裏庭で桜は既に咲きたりといふ
29日 ☆ 一輪の桜の内に満開を願ふ心の宿りゐるなり
30日 ☆ 川岸のつがいの鴨の足元のかくまで赤きにしばし驚く
31日 ☆ なゐの後にわが訪ぬるを喜びて話の止まぬ人のありけり
　
　
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